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サムスンは上へ、SKハイニックスは横へ ― HBMの次を決めるzHBMとHBFの違い

SEDEX 2026で並んだHBM4Eの先に、サムスンはGPU上にHBMを積むzHBM、SKハイニックスは新階層HBFを示した。勝負は速度から距離と標準へ移った。熱・歩留まり・仕様採用の観点で両社の賭けを分析する。

サムスンは上へ、SKハイニックスは横へ ― HBMの次を決めるzHBMとHBFの違い

結論が先である。HBM4Eの次に問われるのは、メモリをいかに速くするかではない。データをいかに短い距離で動かすかである。 2026年10月14日から16日までソウル・COEXで開かれた第28回半導体展示会SEDEX 2026で、サムスン電子とSKハイニックスは並んで第7世代HBMであるHBM4Eを公開した。同時に両社はその先について、正反対の答えを示した。サムスンはHBMをGPUの真上に積むzHBMで「上」を目指し、SKハイニックスはHBMとDRAMの間に新しい階層を挟むHBF(High Bandwidth Flash)で「横」に広げる。速度競争から距離と標準の競争への転換が、今回のSEDEXで最も明確になった変化である。

筆者はサインオフの現場からこの変化を見ている。PrimeTimeによるタイミングサインオフでは、クリティカルパスの問題はしばしばゲートの遅延ではなく、配線の長さと再バッファリングで決まる。テープアウトを経験したエンジニアなら分かる通り、チップの性能はトランジスタだけで決まらない。データをどこに置き、どの経路で、どれだけのエネルギーをかけて運ぶかで決まる。AI推論のメモリ階層で今起きていることは、まさにそれである。

SEDEX 2026で何が公開されたのか

SEDEX 2026には約300社が参加した。2026年10月15日の報道によれば、サムスンとSKハイニックスは同じ会場でHBM4Eを並べて披露した。HBM4Eは第7世代HBMに位置付けられる製品である。

サムスンのHBM4Eは、10nmクラス第6世代にあたる1c DRAMと、4nmファウンドリプロセスで製造するベースダイを組み合わせる。ピン当たり速度は14〜16Gbpsで、HBM4より20%以上高い。最大帯域幅は3.6TB/sとされた。ここまでは従来のHBMの延長線上の進化である。世代が進み、DRAMが微細化し、ロジック側のベースダイが先端プロセスに移り、帯域が上がる。買い手にとって分かりやすいロードマップである。

注目すべきは、その先に置かれた二つの展示である。

サムスンのzHBMは、HBMをGPUの上に垂直に積層する構想である。HBM5と比べた目標として、GPU当たり最大8倍の性能、ワット当たり最大3倍の性能、熱抵抗は半分未満が掲げられた。zHBMは2026年8月のFMS 2026で初めて示され、SEDEXではモックアップ段階の展示だった。量産品でも、顧客認定中の製品でもない。方向を示す構想展示である点を正確に理解する必要がある。

一方、SKハイニックスのHBFは全く異なる発想である。HBFはHBMとSSDの間ではなく、説明によればHBMとDRAMの間に新しいメモリ階層を挿入する技術である。同世代HBMの約半分の帯域幅を目標としつつ、容量は約10倍を目指す。NANDフラッシュを基盤にするため、DRAMのような揮発性メモリとは性質が異なる。読み出しが多いワークロードに容量の大きな中間層を作ることが狙いである。

標準化の進捗も具体的に示された。SKハイニックスはSanDiskと標準化を開始し、2026年8月に最初の仕様が公開された。パートナーとともに2027年1月に最終仕様を策定する計画であり、Googleを含むパートナーが関与する。製品投入の目標は2027年末である。これは構想の発表にとどまらず、仕様策定の工程表を伴う提案である。

メモリ階層の中でHBM、DRAM、HBF、SSDがどう配置されるかを示す図。長文推論ではKV cacheがHBMからあふれ、より大きな下位階層へ移動する。
図:AI推論におけるメモリ階層。HBMは最速だが容量が小さく、KV cacheが増えるとDRAM、さらにストレージ側へあふれる。HBFはその間に新しい容量階層を作ろうとする提案である。Source: VLSI Korea analysis based on SEDEX 2026 disclosures, Oct 15, 2026.

zHBMとHBFの比較

二つの技術は「HBMの次」という同じ問いへの答えだが、解き方が根本的に違う。

項目サムスン zHBMSKハイニックス HBF
基本発想垂直統合。HBMをGPUの上に積む水平拡張。HBMとDRAMの間に新階層を作る
狙うボトルネック距離。GPUとメモリの間の移動距離と消費電力容量。HBMに収まらないデータを置く場所の不足
目標HBM5比でGPU当たり最大8倍の性能、ワット当たり最大3倍、熱抵抗半分未満同世代HBMの約半分の帯域幅、約10倍の容量
基盤技術HBM積層、先端パッケージ、ファウンドリのベースダイNANDフラッシュ、コントローラ、新しいインターフェース仕様
現在の段階モックアップ(FMS 2026で初公開、SEDEX 2026で展示)仕様策定中(2026年8月に初仕様公開)
次の節目モックアップを超えた実証と顧客統合の形2027年1月 最終仕様、2027年末 製品投入目標
強みが生きる条件メモリ、ファウンドリ、パッケージを一体で提供できること仕様が業界標準として採用されること

この表が示すのは、性能指標の単純な優劣ではない。zHBMの勝負は統合の難しさであり、HBFの勝負は採用の広がりである。前者は作れるかどうか、後者は使われるかどうかが問われる。

zHBMの垂直積層アプローチとHBFの新規階層アプローチを帯域幅と容量の軸で比較した図
図:zHBMとHBFの位置付け比較。zHBMは帯域とエネルギー効率を距離の短縮で改善し、HBFは帯域を抑える代わりに容量を大きく広げる。Source: VLSI Korea analysis based on SEDEX 2026 disclosures, Oct 15, 2026.

なぜ「速度」より「距離」がボトルネックになったのか

SEDEX 2026の基調講演で、SKハイニックスのCTOであるアン・ヒョン氏は、メモリ階層間のデータ移動が最も重要なボトルネックになったと指摘した。同氏はAIインフラの規模が2030年までに現在の約20倍になるとの見通しにも言及した。数字そのものより重要なのは、ボトルネックの定義が変わったという認識である。

学習(トレーニング)中心の時代、メモリの議論は帯域幅に集中しやすかった。巨大なモデルとバッチを高速に処理するには、GPUにデータを供給し続ける帯域が必要だったからである。しかしサービスの現場で比重が高まっている推論、とりわけ文脈の長い推論では様相が異なる。

長い文脈の推論では、KV cacheが急速に膨らむ。KV cacheは過去のトークンに関する計算結果を保持し、次トークン生成のたびに参照される中間データである。文脈が長くなり、同時利用者が増えるほど、KV cacheはHBMに収まらなくなる。あふれたデータはDRAMへ、さらにSSD側へ押し出される。そのたびにレイテンシが増え、データ移動に電力が使われ、GPUは計算ではなく待機に時間を使う。

つまり問題は、演算器が遅いことではない。必要なデータが遠くにあることである。半導体設計の言葉で言えば、これはタイミングの問題であると同時に、フロアプランの問題である。ブロックをどう配置し、配線をどう短くするか。サインオフで扱うIRドロップや信号インテグリティの問題と同様に、システム全体の配置が性能上限を決める。

推論が読み出し中心である点も重要である。アン・ヒョン氏が指摘した通り、推論ワークロードは読み出しが多い。NANDフラッシュは書き込みや書き換えの面で弱さを持つ一方、読み出し中心で容量単価が問われる用途では再び意味を持つ。書き込み特性だけでNANDを推論階層から外すのは、ワークロードの性質を見誤ることになる。HBFの発想はこの点に立脚している。最速の階層を作るのではなく、読み出しが多く、容量が必要なデータを置くのに適した階層を作るという発想である。

エンジニアの視点:本当の難所はどこか

エンジニアリングの観点では、zHBMとHBFの難所は発表資料の中心には出てこない場所にある。

zHBMの第一の難所は熱経路である。GPUの上にメモリを積めば、GPU自体の発熱とメモリの発熱が重なる。熱抵抗を半分未満にするという目標が掲げられたこと自体、熱が最大の課題であることの裏返しである。放熱経路をどこに確保し、温度勾配の中でDRAMのリフレッシュや保持特性をどう保証するかは、モックアップでは答えられない。

第二の難所はKGD(Known Good Die)とパッケージ歩留まりである。積層数が増え、異種ダイの接合が増えるほど、一つの不良がパッケージ全体を不良にするリスクが高まる。事前に良品と確認されたダイをどう確保し、接合後のテストとリペアをどう設計するか。ハイブリッドボンディングによる20層以上の積層がHBM5の文脈で語られるのと同様に、垂直統合は歩留まり管理の統合でもある。

第三に、GPUの上に誰が何を積むのかという統合の所有権の問題がある。GPU設計者、メモリ供給者、パッケージを担うファウンドリの境界が変わる。サムスンがメモリ、ファウンドリ、先端パッケージを一社で束ねられることは、この境界交渉における強いカードである。逆に言えば、zHBMはその束ねが成立する顧客関係でこそ強く、オープンな供給網では採用の形が変わり得る。

HBFの難所はNANDそのものではない。コントローラとソフトウェアスタックである。新しい階層ができても、どのデータをいつその階層に置き、いつHBM側に戻すかを決める仕組みがなければ、容量はあっても性能は出ない。キャッシュ階層の運用はハードウェアだけで完結しない。ドライバ、ランタイム、フレームワークとの連携が必要であり、階層移動のポリシーが推論レイテンシのばらつきを左右する。

そして最大の難所は標準の採用である。HBFが単なる一社の製品で終われば、ソフトウェア側の対応コストを払う動機は弱い。Googleを含むパートナーと最終仕様を作る工程が重要な理由はここにある。仕様に参加する企業が増えるほど、コントローラ、ファームウェア、ソフトウェアの投資が正当化されやすくなる。HBFの成否はNANDの性能表ではなく、仕様書に名前を連ねる企業の広がりで測るべきである。

ビジネス分析:統合で勝つか、標準で勝つか

MBAの視点で整理すると、両社の賭けは対照的である。

サムスンの賭けは垂直統合への賭けである。距離を物理的に縮めることで性能とエネルギー効率を上げ、その実現に必要なDRAM、ベースダイ用ファウンドリ、先端パッケージを束ねて提供する。統合が成功すれば、顧客は部品ではなく成果を買うことになり、切り替えコストは高くなる。一世代の速度優位よりも、統合された供給関係は模倣が難しい。ただし統合の失敗や歩留まりの問題は、束ねた側が一手に引き受けることになる。リスクも統合されるのである。

SKハイニックスの賭けは標準への賭けである。新しい階層を定義し、その仕様策定を主導する。メモリ産業の歴史が示す通り、標準や仕様における位置は、一世代の製造優位より長持ちしやすい。仕様を定義した側は、市場の配分そのものに影響を与える。どの企業がコントローラを作り、どのインターフェースが前提となり、どのソフトウェアが最適化されるかは、仕様の段階で大きく方向付けられる。

これはDRAMやHBMの世代競争とは異なる種類の競争である。HBM4からHBM4Eへの進化は、帯域とピン速度で測れる直線的な競争である。一方、HBFが狙うのは「階層そのものを増やす」という市場定義の競争であり、zHBMが狙うのは「階層間の距離を消す」という統合定義の競争である。

どちらが正しいかは、顧客のボトルネックがどこにあるかで決まる。短い文脈で帯域が律速なら従来型HBMの進化が効く。長い文脈で容量とデータ移動が律速なら、HBF型の容量階層か、zHBM型の近接統合に価値が出る。現実のデータセンターでは両方の負荷が混在する。したがって勝敗は二者択一ではなく、どのワークロードの支出が増えるかで決まる可能性が高い。

もう一つ見落とせないのは時間軸である。標準は採用までに時間がかかるが、一度根付けば長い。統合は顧客ごとに速く成果を出せる可能性があるが、世代ごとに再び歩留まりと熱の壁と向き合う必要がある。投資家や事業企画の観点では、zHBMは実行力の評価軸で、HBFはエコシステム形成の評価軸で追うべき案件である。

今日お金になるのは、依然としてHBM4とHBM4Eである

新しい階層の議論に熱が入る一方で、足元の収益を支えるのは既存のHBMである。この点は数字が明確である。

TSMCは2026年10月15日に2026年第3四半期決算を発表した。売上高は1兆4940億台湾ドル(467億米ドル)、純利益は7630億6000万台湾ドルで前年同期比68.7%増だった。経営陣はAI需要が依然として供給を上回っていると述べた。また、業界ではメモリ不足が2028年まで続く可能性があるとの見方も報じられている。日付はいずれも2026年10月時点の情報である。

つまり、HBFの製品投入目標が2027年末、zHBMがモックアップ段階である現時点では、供給不足の中で価格と配分を決めるのはHBM4とHBM4Eである。HBM4Eの認定(クオリフィケーション)が進むかどうか、ベースダイを含む供給体制が整うかどうかが、向こう数四半期の収益に直結する。

サムスンがHBM5について、2029年の量産を目標とし、20層以上の積層にハイブリッドボンディングを用いる計画を進めていると報じられている点も、この文脈で見るべきである。これは報じられた計画であり、確定した実績ではない。HBM4E、HBM5、そしてzHBMという階段を途切れなく示すこと自体が、顧客との長期配分交渉における材料になる。

新規階層への投資判断で重要なのは、将来の構想と現在のキャッシュを混同しないことである。HBFとzHBMは2028年以降の市場構造を左右し得るが、2026年から2027年の損益を決めるのはHBM4Eの歩留まり、認定、配分である。両方の時間軸を分けて評価することが、半導体メモリ株や供給網を見る際の基本姿勢になる。

汎用DRAMの側では、中国のCXMTの追い上げも無視できない。新しい階層に経営資源を振り向ける間にも、コモディティ領域での競争圧力は高まる。先端で差別化し、汎用で守るという二正面の圧力は、韓国メモリ大手二社に共通する経営課題である。

ウォッチリスト

今後、次を確認すべきである。

第一に、2027年1月に予定されるHBF最終仕様である。参加企業の顔ぶれ、インターフェースの定義、コントローラの責任分界が、HBFが業界標準になるか一社規格にとどまるかを左右する。

第二に、HBM4Eの顧客認定の進捗である。14〜16Gbps、最大3.6TB/sという仕様が、実際の顧客システムで認定され、量産配分につながるかが足元の本丸である。

第三に、zHBMがモックアップを超えるかどうかである。熱ソリューション、テスト済みダイの供給方法、GPU側パートナーとの統合形態について具体的な実証が出るかが判断材料になる。

第四に、2029年量産目標とされるHBM5とハイブリッドボンディングの進捗、そして汎用DRAMにおけるCXMTの追い上げである。先端階層の競争とコモディティの競争は同時に進む。

FAQ

zHBMとは何か、HBM5とどう違うのか?

zHBMはサムスンが示した構想で、HBMをGPUの上に垂直に積層し、データ移動距離を極端に短くすることを狙う。目標としてHBM5比でGPU当たり最大8倍の性能、ワット当たり最大3倍の性能、熱抵抗半分未満が掲げられた。2026年8月のFMS 2026で初公開され、SEDEX 2026ではモックアップ段階である。HBM5自体は2029年量産目標と報じられる次世代HBMであり、zHBMはその先の統合形態の提案と位置付けられる。

HBFとは何か、なぜNANDを使うのか?

HBF(High Bandwidth Flash)はSKハイニックスが提案する新しいメモリ階層で、HBMとDRAMの間に挿入される。同世代HBMの約半分の帯域幅と約10倍の容量が目標である。推論ワークロードは読み出しが多いため、書き込みに弱さを持つNANDフラッシュでも、大容量の読み出し中心階層として意味を持つという考えに基づく。SanDiskと標準化が進められ、2026年8月に初仕様が公開された。

HBFはいつ製品化されるのか?

計画として、パートナーとともに2027年1月に最終仕様を策定し、2027年末の製品投入が目標とされている。Googleを含むパートナーが関与するとされる。ただしこれは2026年10月時点で示された目標工程であり、最終仕様の内容と参加企業の広がりが、実際の製品化の確度を左右する。

HBM4Eはなぜ重要なのか?

HBM4Eは第7世代HBMであり、現在のAI需要とメモリ不足の中で実際に収益を生む製品だからである。サムスン仕様では1c DRAMと4nmベースダイの組み合わせで、ピン当たり14〜16Gbps、最大3.6TB/sとされる。zHBMやHBFが将来の構想であるのに対し、HBM4Eの認定と量産は向こう数四半期の供給と収益に直接影響する。

まとめ

SEDEX 2026が示したのは、HBMの競争が帯域幅の数字比べから、配置と標準の競争へ移った姿である。サムスンは距離を消すために上へ積み、SKハイニックスは容量の壁を避けるために横へ階層を増やす。エンジニアリングの難所も、ビジネスの勝ち筋も異なる。短期の収益はHBM4Eが決める。だが中長期の市場構造を決めるのは、2027年1月のHBF最終仕様と、zHBMがモックアップから実証へ進めるかどうかである。メモリ産業では、一世代速いことより、階層の定義を握ることの方が長く効く場合がある。今回の二つの提案は、その命題を改めて市場に突き付けた。

Disclosure: 本記事は2026年10月14〜16日に開催されたSEDEX 2026での公開情報、2026年10月15日時点の報道およびTSMCの2026年第3四半期決算(2026年10月15日発表)に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではない。著者はSynopsysのStaff Product EngineerとしてPrimeTimeサインオフ業務に従事しており、本記事の見解は所属組織の公式見解ではない。計画や目標として示された数値(zHBMの性能目標、HBFの製品投入時期、HBM5の量産時期など)は各社の発表や報道に基づく将来見通しであり、実現を保証するものではない。

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